《私の本棚 第四十八》 平成13年3月
「敦 煌」 井上靖
作
物語は主人公の趙行徳 (ちょうぎょうとく) が、進士の試験を受けるところから始まる。合格は間違いなく、ただ、何番で合格できるかが気に掛かる位の秀才である。しかし最終の口頭試問の段階で、不覚にも春の陽気に誘われて居眠りをし、自分の名前が呼ばれたことにも気づかない。ここから波乱の人生が幕開いていく。 思いがけず誰も読めない西夏文字に出会い、西夏に行こうとして兵士にされてしまう。紆余曲折を経て望みは叶うが、最後には敦煌の千仏洞におびただしい量の教典を隠す。物語はここで終わる。一種不思議な雰囲気をもった作品です。 この題材になった教典は、後年偶然に発見されますが、イギリスの探検家スタインが大量に持ち帰っています。日本の大谷探検隊も持ち帰ったはずです。 地図で見ると京都から敦煌まで直線距離約3500q、敦煌からバーミヤンの石窟群まで約2000qです。バーミヤンでは歴史にはつきものの破壊がタリバン勢力によって行われています。そして季節は早春。遙か彼方のゴビ砂漠やタクラマカン砂漠の黄色い砂が、日本の空をただよい車や家を染めています。 |
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