《私の本棚 第四十五》 2000年(平成12年)12月   

    
「歌集・一握の砂」  石川啄木 

  東海の小島の磯の白砂に

われ泣きぬれて

蟹とたはむる

 
たはむれに母を背負ひて

そのあまり軽きに泣きて

三歩あゆまず

 
岩手県渋民村の、貧乏な家 (寺 )に生まれたこと。二十六歳で亡くなったこと。経済的に恵まれず、金田一京介にも援助を受けていたこと。そのような事実のみを知ると、誰しもが、彼の歌に彼自身を重ねてしまいます。   しかし彼は、渋民村で考えられないほど良い教育を受けて、英語を自由に読めるようになり、西洋文明の驚くほどの知識を身につけていたこと。十六歳で東京に出て与謝野鉄幹・晶子に可愛がってもらっていたこと。バイオリンを習ったこともあり、西洋音楽にも理解があったこと。友人の斡旋で朝日新聞に就職、実績も無いのに東京毎日新聞の連載小説を依頼されていたこと。周囲の好意に報いることが殆ど無かったこと。それらを知って別の作品を読むと、また違った感想を抱きます
  こころよく   

人を讃めてみたくなりにけり

利己の心に倦めるさびしさ

 
その膝に枕しつつも

我がこころ

思ひしはみな我のことなり
 
もみじ、モミジ




  もみじ
 (八瀬、高野川)

 
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