《私の本棚 第四十》 2000年(平成12年)7月
「日曜日」 三島由紀夫
作
三島由紀夫と言えば当然、「金閣寺」 が思い出されます。しかしその一方でより多くの読者が得られる通俗的小説も書いています。「美徳のよろめき」 「禁色」
等は、生活の為に書いたと言っています。しかしそれとても決して低俗ではなく、文学作品として通用するものです。 日本文学研究者ドナルド・キーン氏によると、「小説家が苦悩の代表者のような顔をするのは変だ」 と思うようになり、いつも上機嫌に振る舞っていたそうです。もしも生活感情の中に、絶望や哀れっぽい自己諧謔を盛り込む意志があれば、一流の私小説家になっただろうにとも言っています。 「日曜日」 の最後では、仲良く湖畔のピクニックに出かけた恋人同士が、帰途に混雑のホームから転落して二人とも轢死します。その最後の場面が、何かしら作者の最後 (自決) と重なります。キーン氏が作者の生前に言った 「自分のこしらえたあらゆる芸術作品の中で最高の傑作は自分である、とワイルドが書いていたが、三島にもあてはまるのではないだろうか。」 と言う言葉は印象的です。 |
琵琶湖岸の凧揚げ |
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