《私の本棚 第十七》  1998年(平成10年)8月

    
「蜘蛛の糸」  芥川龍之介 (参照)

「ある日のことでございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、一人でぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。・・・」 という書き出しのこの作品にはいろいろな事柄の両極端が表現されています。非常に美しい、極楽浄土の蓮の花の香り漂う安堵の世界。カン(牛偏に建の文字)陀多の居る恐ろしい地獄世界。水晶のような水をたたえた蓮池と背中合わせの暗黒の世界。お釈迦様のように、人間のたった一つの良い行いをも忘れない仏様と、カン陀多のようにたった一つしか良いことを行わなかった人間。しかもその良い行いとは、ある日一匹の蜘蛛を殺さなかった事だけ。お釈迦様はその限りなく小さな細々とした善行に対して、いかにも頼りなげな細い蜘蛛の糸を救いの綱として降ろされたが、自分の無慈悲な心のため、お釈迦様の慈悲の心に応えることが出来なかったカン陀多。
 六道世界の中で明確な違いがあるのは、人界と天界の間だけ。地獄とは此岸、極楽とは彼岸と考えられなくも無い。折しもお盆。故人は皆、極楽浄土に居られるのでしょう。   
蓮 はす





   紅蓮

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