《私の本棚 第九十七》 平成17年4月
「にごりえ」
樋口 一葉
作
新五千円札はごく普通に出回ってきましたが、最初は物珍しさから、なかなかお目にかかりませんでした。樋口一葉といっても、若い世代の人は知らない人が多いかも知れません。「おおつごもり」「たけくらべ」
等は文学史にも登場します。 「にごりえ」 は、当時一般的であった遊郭の女性と馴染みの客を題材にしています。男が無理心中をして話は終わります。 内容的には特に読者が思索を巡らす必要はありません。しかし文体は流麗なもので、特筆すべきは句点 (。) までの文字数の多さです。が、これは句読点と解せずに、筆を用いてさらさらと書かれた文章を想像した方がいいでしょう。読み始めると直ぐに慣れて、心地よいリズムになります。明治という時代、女性、二十三歳で書いた小説。お札の肖像になったことは必然でしょうか。作家の大岡昇平氏は、日本の女流作家の中で、紫式部と並んで最も高い名声を確保しているとも評しています。 ただ、私自身はそこまで感じ取る力はありませんが。 |
仏隆寺の一本桜(天然記念物) 【本文との関係---季節】 |
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