《私の本棚 第八十二》      平成16年1月

    「運命ではなく」   ケルテース・イムレ  作

 ケルテースはハンガリーの作家で、02年にノーベル文学賞を受賞しています。受賞のニュースを受けて、同じ名前の別の作家の本が急遽売れたというくらい、あまり知られない存在だったそうです。14歳の少年ケルテースはユダヤ人狩りに遭い、ナチスの強制収容所での生活を体験します。学校へ行く途中のバスの中までがごく普通の日常生活です。突然バスから降ろされて、理由の判らないままに、非日常の収容所生活に放り込まれていきます。アウシュビッツについては、30年以上前に読んだ 「夜と霧」 (フランクル著、今、新版が出ています) に詳しく書かれていました。しかしこれは記録ではなく作品として淡々と書かれています。読んで感じるのは、子供というものは如何なる環境にでも順応するということ。少なくとも大人よりは。

 末尾に 「強制収容所における幸せについて、話す必要がある」 と結んでいます。人間は環境が過酷であればあるほど、些細なこと、例えば具の入ってない薄いスープから、かすかに立ち上る湯気にでも無上の幸せを感じる (作者) ということなのでしょうか。
 







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