《私の本棚 第六十四》  平成14年7月  

              
「風立ちぬ」  堀 辰雄  

 風立ちぬという題名は、如何にも清々しい風を連想しますが、信州八ヶ岳山麓のサナトリユームで、 作者自身が 婚約者を亡くした経験をもとに書かれています。 矢野綾子との出会いも離別も、定かには語られていません。それは恰も、風のように出会って風のように去ったかのように。(参照)
「彼女」 は、自分の結核が直らない程度に進行していることを早くから感じています。そしてそれに抗おうとはしないで、在るがままに受け入れています。死をも受け入れようとしている人間と強い結びつきで対峙する者は、例え寡黙であっても濃密な時を過ごす。残される者には重い重い時の流れ。受け入れてしまった者には、ある意味では軽やかな日々…なのでしょうか。最後の言葉は 「あなたの髪に雪がついているの…」 という思いやり。 

   「朝に紅顔の美少年なりしも夕べには白骨となりぬ」

そうですね 風にも様々な風がありますね

          風

          木の葉を散らす風

          病室を清浄にする風

          言の葉を運ぶ風

          人との出会いをもたらす風

          恋人の胸の高鳴りを伝える風

          季節を知らせる風

          人を連れ去り行く風

          「祗園精舎の鐘の聲、諸行無常の響あり……偏に風の前の塵に同じ」   (参照・祇園精舎)

          風   風   風

白樺






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