《私の本棚 第六》      1997年(平成9年)9月
 
     「高野聖」  泉鏡花  作

 高野聖とは、高野山の僧が修行のために諸国行脚をしている時に称され た敬称です。若狭へ帰省する「私」に、この僧が旅先で経験した怪談を語り聞かせます。山越えをする時に入ってはいけないと言われた道に入り、途中で蛭の巣窟を通り抜けますが運良く命拾い。飛騨の深い山中で場違いな美女の一軒家に宿を乞います。谷川で身体を洗うために、その美女に伴われて行く途中、ヒキガエルや猿が美女にまとわりついてきます。この女はやましい心を持った人間 (男) を、カエルや猿や馬に変えてしまう魔力をもっていたのです。しかし 「私」 は不思議にもこの女に守られて里へ下りることができたというものです。 俗世界を象徴的に表現しています。恋愛感情を無視し、家と家との結びつきだけを重視する媒酌結婚を憎むとともに、そのような関係に疑問を持たない男 (夫) 達に怒りを感じ、その妻に対しては同情的であったといいます。
 作者は9歳で母を亡くし、自然や社会の中には自分に向ってくる妖怪が実在し魔力を用いるが、一方では自分を守ってくれる観音も実在すると信じていたということです。
 この作品はそれをそのまま表現し、作中の女も美人でやさしくかつ魔力を持っており、夫は何の取り柄もなく描かれて います。泉鏡花自身の精神世界の背景を知らないと、何を表現しようとしているのか分かりにくいものになっています。
鏡花の旧宅跡は鯉が群れる浅野川のほとり、旧東廓や主計町 (かずえまち) に近い所にありますが、今は土産物店と蔵のある茶店が建っています。 
金沢 主計町




 金沢市 浅野川辺、主計町

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