《私の本棚 第五十四》  平成13年9月  

     「夫婦善哉」 織田
作之助  

 大阪は活気があるとよく言われます。活気と言うよりは、何かしら独特の空気といった方がよいのかも知れません。何でも受け入れてくれそうな温かさとでも言うのでしょうか。ゴチャゴチャとした中に、ホッとできる不思議な間合いです。大阪の南には、今でもそんな空間があります。
夫婦善哉は良く知られています。年中借金取りが来るような貧乏人の家に生まれて、ろくに教育も受けられずに女中奉公、芸者見習、芸者となってきた蝶子。格別の不自由なく育った化粧品問屋の息子、維康柳吉。ある意味では腐れ縁とでもいうような二人の関係。
 この小説は、天王寺に生まれた作者だからこそ書けたものと思います。妻子を捨てて蝶子と同棲する柳吉ですが、儲かればすぐに遊蕩三昧で倒産。それでも蝶子は、そんな柳吉のことがどうしようもなく好きで好きでたまりません。ヤトナをして生活を立て直す繰り返し。そんな二人の生活が、違和感もなく陰気くさくもなく展開されます。それを溶け込ませてしまう南の町。「不思議なるかな夫婦の縁」 そんな言葉を聞いたことがある様な気がします。 
法善寺横丁





  法善寺横丁
    前の頁 ,15少年漂流記    次の頁 ,スタンド・バイ・ミー       第一分冊目次    第一分冊トップ頁


   Vol V,トップ頁      Vol U,トップ頁