暗夜行路という題名から、私はつい、十七歳の時 (個人的卒業旅行) に見た尾道水道の夜景を思い浮かべます。暗い水道を挟んで直ぐそこに向島がありました。その夜の水道はそれ程頻繁でもなく、かといって随分少なくもなく船が行き交っていた事を覚えています。海と船が大好きな私は、行路ではなく航路を連想してしまいます。 この小説の題名に影響を与えているのかどうかは知りませんが、作者はしばらく尾道で一人住まいをし、小説を書いていました。自伝小説ではないのですが、巧みに自伝的なものと虚構を織り交ぜています。主人公の時任謙作は、母と父方の祖父の実子という運命を負って生まれてきます。初めてそれを知ったとき、放蕩するのはその血の性だと悩みます。しかし、尾道の一人住まいを経て徐々に立ち直り、直子という伴侶を得ます。しかし運命は未だ彼を許さず、妻といとこの過ちと言う試練を課します。謙作は、完全な意味で妻を許す為の時間を求めて大山へ旅立つ。そこで病を患い妻と再会しますが、生死や許し切れたかどうかは読者に委ねられています。 |
金比羅詣での人々 |
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