アンデルセン(参考)は三十三夜にわたって、月に物語を させます。絵のない絵本という題名のとおり、絵本ではありま せんが、読んでいるとあたかも絵本を見ているような気持ちになってきます。貧しく若い絵かきに、月が自分が見てきた情景を話して聞かせ、それを絵かきが描いていきます。地球上のあらゆるところを晧晧とした光で照らしながら、そこで見たことを話してくれるのです。しかもそこに描かれる対象は、太陽の光に照らさ
れたのでは絵にならないような何気ないもの。青白く輝く月の光に照らされることで、初めて生き生きとしたものになるように感じます。 月の光だけで撮った写真集を見たことがありますが、それは決して寒々としたものではなく、何かしら一種の温かさを感じるものでした。それと同じように、作者自身の半生と物語中の絵かきを重ねながら、その底流には深い悲しみや挫折感を味わった者にしか分らないような、優しさが流れているようにも思います。 この物語を文字どおり絵本にすると、どんな作品になるのか見たい気もします。 |
大台山系の秋 【本文との関係---発行月】 |
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